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架空戦記小説と軍事の記事を中心にしたブログです
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 1945年(昭和20年)4月7日。小磯内閣が戦局の悪化と対中和平工作の失敗で総辞職し、代わって鈴木貫太郎予備役海軍大将を総理にした。鈴木内閣が組閣された。
近衛のシナリオではこの鈴木内閣が終戦の為の内閣である。東条・小磯と陸軍の人間が総理で戦争を進めてきた事を考えれば政局の流れが変わったと言える。
東京の政局から目を離せば、東京をはじめとする各主要都市はB29の爆撃を受けて灰燼と化していた。硫黄島は陥落して、沖縄には米軍が上陸して守備隊と激戦を繰り広げ、海軍も戦艦「大和」を失った。もう本土は前線と銃後の境が消えようとしていた。
この危機的状況だったが、鈴木内閣は本土決戦での徹底抗戦を決定するのであった。

この時の終戦工作として近衛は2月14日に天皇に拝謁して
「敗戦は早速必至なりと存候」
と始まる奏上を天皇に申し上げた。内容は陸軍がソ連と提携する赤化の兆候があると警告した。これは戦争継続の為には陸軍はどんな手段も厭わない偏った思想を持っていると言っていると解釈出来る。近衛はこの強硬な陸軍を人事で粛正しようと考えた。(粛軍後の陸軍の再編には山下奉文大将が適任だとされていた)
しかし、人事の異動は軍内部を様変わりさせる(終戦のために)ものである。これを断行する為には「もう一度戦果を上げなければ難しい」と天皇は発言した。敵に一矢報いて納得して貰った後でないと軍部は人事の問題には応じないのでは無いかと考えたのであった。
下手に触れれば破裂する軍部と言う風船に天皇も近衛も決定的な抑えを何処でするか悩んでいた。

その一方で対外的な終戦工作も行われた。

先に述べた小磯内閣の対中和平工作は重慶の国民党政府の代表だとする繆斌(みゅうひん)を通じて対中和平を行うとしたが、小磯内閣では激しい反発を起こした。けれども総理の小磯だけが乗り気で繆斌を日本に呼ぶまでしたが閣僚が動かねばどうにもならない。結局はこれが小磯を失脚させる事となる。
 スイスでは、藤村一義海軍中佐(スイス駐在海軍武官)が反ナチのドイツ人のフリードリヒ・ハックを通じてアメリカの諜報機関OSSのアレン・ダレスと終戦に向けた工作を行った。(藤村工作)
しかし、藤村が海軍省に報告を上げても「敵の謀略の可能性あり」「本件を外務省に一任」と海軍を通じて政策に反映させる事は出来なかった。
同じ頃、スウェーデンでは陸軍の小野寺信大佐が親日家のプリンス・カールを通してスウェーデン国王に働きかけてイギリス国王へ日本の皇室に終戦の斡旋をしてもらう工作を日本へは秘密で行った。(小野寺工作)
しかし、この工作は日本の陸軍上層部の知る所となる。6月に陸軍参謀総長梅津美治郎大将から「中央の方針に反し和平工作をするものある情報あり」と電報が小野寺に渡る。陸軍は小野寺に「余計な行動は行うな」と釘を刺したのだ。
情報を漏らしたのはスウェーデン公使の岡本季正であった。彼は外務省に小野寺の行動を報告し、それが陸軍の知る所となる。
この2つの工作は英米への窓口を開くものであったが、日本政府はソ連の仲介で終戦に向かう方針を決めていた。7月には近衛を特使にソ連へ派遣する事が決まる。この対ソ交渉へ政府は外交を一本化した。これが2つの交渉を中断させる事となる。
また、終戦と言う事業を口に出す事が海軍にしろ陸軍にしろ外務省にしろ難しい事でもあったと言える。小野寺の例を見ても思わぬ形で情報が漏れ(日本の暗号はアメリカに解読されていたが)せっかくの工作も崩れかねない事になる。

だが、その対ソ交渉も1945年2月のヤルタ会談でソ連の指導者スターリンが対日参戦の約束をアメリカのルーズベルト大統領とイギリスのチャーチル首相に約束していた。日本はそれを知ってかしらずか日ソ不可侵条約の延長をソ連が参戦する直前に申し入れるのである。
これを見れば日本政府は愚かな行動に出たと見える。けれども資本主義のアメリカやイギリスから見れば日本が社会主義陣営に近づくと言う戦後世界を見据えていた両国から見れば「見逃せない」状況を作りだして交渉に引き込もうとしたのかも知れない。
けれども、対外交渉が政府・陸軍・海軍・外務省とで統一して行われなかった事が窓口を有効利用できない原因になったのは間違いない。その理由は陸軍による実力行使を伴う抵抗が現実に考えられたからであった。

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