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「アリシア。アテナ。燃料と残弾は?」
晃はF15との空戦を終えてアリシアとアテナの機体の状況を聞く。三大妖精小隊のF14は中射程のスパローミサイル3発。短射程のサイドワインダーミサイル2発に長射程のフェニックスミサイル2発を装備して出撃していた。
「こっちはスパローもサイドワインダーも1発づつ。フェニックスは2発あるわ」
とアリシア。
「スパローは無し。サイドワインダー1発。フェニックス2発」
とアテナ。晃は機関砲しか使っていない為にミサイル全てが残っている。
「ティフィーネとロッチャは空戦空域に向かえ。敵戦闘機を撃退せよ」
空母「アクア」からの新たな命令で2個小隊のF14が「ネオ・ヴェネチア」の戦闘機隊を援護すべく向かう。
(何故敵の戦闘機は残っているんだ?もう護衛すべきジャギュア攻撃機の残存は離脱したのに)
晃は疑問が浮かんだ。当初の目的であるジャギュア攻撃機を護衛する任務が敵戦闘機にあると考えていた。だが、今は護衛任務を放棄したか変更して粘り強く空戦を続けている。
(また陽動か!?)
最初の空戦の事を思い出した晃。こちらの戦闘機を釘付けにすべく敵は戦闘機同士の空戦を仕掛ける。その間に攻撃機を突入させて艦隊に攻撃をした。
(だとしたら何処から来る。今度こそは…)
晃はコクピットの周囲に広がる空を敵の姿求めて目配りをする。だが、肉眼では見つかるものでは無い。思わずレーダーのディスプレイが見れる藍華に新しい敵の反応が無いか聞きたくなった。けれども今の藍華は座席に座るだけしか出来ない状態だとすぐに思い出して口に出かけた言葉を飲み込む。
(ここで暁とウッティーが戦っているの…)
晃がまだ姿が見えない敵を探そうとしている時に藍華は目の前のTIDのディスプレイを見つめていた。
そこには一カ所だけ記号が入り乱れる異様な箇所があった。そこが暁とウッティーら「ネオ・ヴェネチア」の戦闘機とティフィーネ小隊・ロッチャ小隊が戦う空域である。
戦術記号の1つ1つには誰かが乗って戦っている。そのどれかによく知る人たちが居る。近くに居て何故か遠くに感じる寂しさを藍華は感じた。
それは自分の乗るF14の横を飛ぶ灯里達に目の前の晃対しても同じ感情を抱いた。同じ場所に居て何も出来ない事が疎外感を生んでいた。
(抜け出したい。何も出来ないのにここには居られない!!)
藍華は泣き出しそうな衝動を抑えるように右手をTIDディスプレイに置き崩れそうな自分を支える。
「!!」
その時。藍華は体中に電気が走ったと思える衝撃を受けた。何かが自分の中に入り込む。何かを見せようと脳へと電流は走る。
(見える…何かが記憶に刻まれる)
脳裏におぼろげに出てくる記憶。それは段々と鮮明さを増す。光景も声や音も鮮明になると編集された映像みたいに断片的な記憶が次々と頭を巡る。
「我がアクアはマンホームより独立する!」
ネオベネチアのサン・マルコ広場で集まる群衆へ向けて演説する政治家の姿があった。それに歓喜で応える群衆。それを藍華は晃や灯里・アリシア・アリス・アテナと共に遠くから見ていた。
「これからが大変だぞ。これから…」
晃はぽつりと醒めた口調で言った。この意味を藍華は分からずにいた。
火星をテラフォーミングして人類が入植したアクア。一方で人類を送り出した地球もといマンホーム。マンホームは開拓が終わり経済が安定しているアクアに様々な税を導入してマンホームで深刻化する経済の悪化と財政の不足を補おうとした。これにアクアの住民は誰しも反対した。あたかも植民地のごとく搾取しようとするマンホームに怒りが頂点に達した。これにマンホームはアクアに圧力をかけ、アクアの政治にマンホームからの官僚や議員を送り込むなどしてアクアを完全な管理下に置こうとした。このやり方にアクアでの不満は頂点に達して独立へと至った。
「とうとう来たか…」
姫屋で晃と藍華は外の様子を見ていた。それはカーテンに隠れながらそっと見ていた。
「あれがマンホームの?」
「そうだ。このアクアを占領する気だ」
姫屋の前には装甲車を連ねて進むマンホームの軍隊が見えた。マンホームはアクアを政治的な支配から軍事力を行使しての圧政を敷こうとしていた。
「私はしばらくここを離れる」
晃がそう言うと藍華はその理由が分かった。
「知ってますよ私。アクア独立義勇軍に加わるんですよね」
「そうか…なら話は早い。私が居ない間はこの姫屋を頼むぞ。お前は跡継ぎだからな」
晃が藍華に向き直って藍華に言う。
「晃さん。私も独立義勇軍に入ります!」
「藍華!意味を分かって言っているのか?もしかしたら死ぬかもしれないのだぞ!」
晃は必死に藍華を説得する。えれども藍華の決意は変わらない。
「こんな事になったらウンディーネに仕事は無いですよ。姫屋は当分閉店になるんですから。それなら晃さんと灯里やアリシアさんと共に行きたいです」
「藍華…知っていたか」
晃は灯里とアリシアが独立義勇軍に入隊するのを知っててあえて藍華に知らせなかった。戦場に藍華を行かせたく無かったからだ。
「これ以上私が何を言っても無駄なようだな」
晃は藍華を説得するのを諦めた。
「では行こうか。これからは何倍も厳しいぞ」
「はい、晃さん!」
こうして藍華と晃は独立義勇軍に入隊する事になった。
マンホーム軍の監視を避けるために深夜2人は姫屋を出て灯里・アリシアと合流する。
「藍華ちゃんだ」
灯里が藍華を見つけると嬉しそうに駆け寄る。
「私だけ留守番なんて出来ないわよ」
と藍華も灯里へ笑顔を浮かべて言った。
「私も留守番なんて出来ませんよ先輩」
突然の声に4人は驚いたが、そこには見知った顔が居た。アリスとアテナだ。
「私とアリスちゃんも一緒に行くよ」
アテナがはっきりとした声で言った。
「これでみんな揃ったわね」
アリシアがこう言うと4人は歩き出そうとした。そこへ慌ててやって来る足音が近づく。
「待ってくれ、オレ様達も行くぞ」
暁とウッティーが息を切らせて駆けて来た。
「暁。お前サラマンダーの仕事はどうした?」
暁はサラマンダー(火炎之番人)は浮島でアクアの気候制御を行う職業だ。暁はそれを放り投げて来たのである。
「アリシアさんが独立義勇軍に行くと聞いてな。男として黙っておれまい」
暁が当然だと言う強気な態度で晃に答えた。
「そろそろ行かないと時間が」
アテナがぽつりと言う。
「そうね。独立義勇軍の便が出ちゃうわ」
アリシアもこう言うと集まった6人は歩き出したその姿に戦争へと向かう恐怖はない。親しい仲間と共に旅に出るかのような清々しさが彼ら彼女らにはあった。
「行ってきますネオ・ヴェネチア。少しの間のお別れだけどまたすぐに戻ります。また帰る日まで…」
灯里がネオ・ヴェネチアの街々を眺めながら別れを告げる。民家の灯りがどこか灯里達を見送る人
々の様に思えた。この温もりのある街にまた戻ろう6人は心の奥で誓った。
「恥ずかしい台詞禁止」
「ええ~」
灯里に藍華が優しくいつものツッコミを入れる。
(これで私はここに居るんだ…)
藍華は頭を巡った記憶からこの世界のアクアと自分の事について知った。
それは全く分からなかった目の前の機器の扱い方や乗っているF14戦闘機についても瞬時にデーターを取り込んだように脳内に入った。
(これで私も頑張れる!)
自信を取り戻した藍華は晃に言った。
「晃さん。心配かけてしまってすみません。もう大丈夫です」
「本当か藍華?」
「はい、いつでもミサイルが撃てます。それにTIDもちゃんと把握してます」
このやり取りを終えると晃は藍華が復活した事を確信した。
「燃料はまだある。新たな敵が来れば頼むぞ」
「はい、晃さん!」