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そのF14は尾翼に特徴的なマークが描かれていた。それは円の中に横向きの白い妖精に赤い花弁・音符が描かれていて円の下には「三大妖精」とイタリア語で書かれている。どうやら部隊用のロゴらしい。
白い妖精はスノーホワイト(白き妖精)の通り名を持つアリシア。赤い花弁がグリムゾンローズ(真紅の薔薇)の通り名の晃。音符がセイレーン(天上の謳声)の通り名のアテナ。と言うイメージで描かれたのだろう。
藍華はそれを眺めていた。
「藍華!何をボーっとしてるんだ!早く乗れ!」
プリフライトチェックを終えた晃が藍華に怒鳴る。フライトデッキの光景を眺めていた藍華は急いでF14の側に行く。その時には既に晃はコクピットの前部、操縦手の席に座っていた。
(私はここ?)
藍華は後部の空いているその席に座った。そこにはTIDと呼ばれる戦術指示装置の円形ディスプレイとヘッドアップディスプレイを中心に計器が並ぶ。しかし、藍華には何が何やらさっぱりである。
(どうしよう…)
藍華は座席に座ると自身を囲む多種の計器に萎縮する。そんな中、コクピットのキャノピーがゆっくりと閉まる。藍華はそれを見上げて表情が強張る。もう逃げ出せない。
(晃さんに、晃さんに任せればいいのよ!)
心細い思いを晃への期待で紛らわせる藍華。晃はそれを知らず計器の点検を行う。
「藍華。そっちはOKか?」
晃がそう何気なく聞くと、藍華は反射的に「はい、OKです!」と答えた。
点検が終わると機体を留めていたチョークが外され、フライトデッキコントローラーとエアクラフトチーフの許可を得てF14はカタパルトに向けてデッキクルーの誘導を受けつつ移動する。
藍華は後ろを何気なく振り向くと同じF14が付いて来ている。これはアリシア・灯里の機体だ。その後ろからアテナ・アリスの機体が続く。
晃機とアテナ機は甲板前部にあるカタパルトへ。(アテナ機は晃機の発艦後にカタパルトへ)アリシア機は左舷甲板にあるカタパルトに着いた。
発艦に備えてF14は畳んでいた主翼を延ばす。機体の周囲ではクルーによる最終点検とホールド・バックバーをノーズ・ギアに取り付ける作業を行う。そして最後のカタパルトの点検が終わると晃はカタパルトオフィサーに発艦準備を整えた感謝の証に敬礼する。藍華もそれを見て敬礼した。
「グリムゾン・ローズ発艦する!」
晃がそう無線で言うと前傾姿勢でカタパルトの上にあったF14が鎖や綱を解かれた獣の様に勢い良く飛び出す。それは発艦を指して言われるスラング「キャット・ショット」の言葉通りな姿だ。
「ぎいいやあああああ!!」
藍華は発艦の強いGに悲鳴を上げた。晃はそれに驚いて「大丈夫か藍華!」と聞いた。
「だっ大丈夫です…ちょっと驚いただけですよ、ははは」
変な笑いをしながら藍華はこう答えた。それは諦めに似た感情から出てくるものであった。
「スノー・ホワイト発艦!」
「セイレーン発艦!」
無線からは後に続いて空母「アクア」から飛び立つアリシアとアテナの声がした。そして3機のF14は集合して編隊を組み艦隊の上空を飛行する。
ここで藍華は気持ちに少し余裕が出て眼下の風景を見た。蒼い海に空母「アクア」を他の艦艇が距離を空けて囲む様に展開している。それらが作る白い航跡は藍華には綺麗に見えた。
そんな海の模様を感傷的に見ていた藍華を現実に引き戻す通信が入る。
「フロリアン01より三大妖精リーダー。そちらの11時方向から敵機12機接近。警戒せよ」
「グリムゾン・ローズ了解」
早期警戒機からの通信が終わると続いて空母「アクア」から通信が入る。
「三大妖精リーダー。上空にあるティフィーネ(台風)・ロッチャ(岩)の2個小隊と共に接近する敵機を攻撃せよ」
「グリムゾン・ローズ了解」
2つの交信を終わると晃はアリシアとアテナに命令を下す。
「グリムゾン・ローズより各機。これより敵機を攻撃すべく急行する」
「スノー・ホワイト了解!」
「セイレーン了解!」
力強い3人のプリマの声に藍華は改めて戦場に居る事を思い知る。
(これから戦うんだ…これから)