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「私、戦闘機なんか乗った事はありません!」
藍華は晃に抗議する口調で言った。それを聞いた晃は右手で頭を抱えて「う~ん」と唸る。
そして
「藍華。それは本気か?それともサボりたいからの冗談か?」
晃は真剣な眼差しで藍華に顔を間近に近づけて問い質した。
藍華は晃の迫力に息を呑んだ。これは冗談が通じる顔では無い。しかし、藍華はここでも戦闘機パイロットでは無いと言っても晃を納得させられない事は分かる。
「どうなんだ?藍華」
晃は急き立てるように改めて問う。藍華は語る言葉を失い閉口してしまう。
「フェラーリ中尉とフランチェスカ少尉。レディルーム(ブリーフィングを行う部屋)にお越し下さい」
天井のスピーカーから優しげに聞こえるものの、鋭い物言いが聞こえた。これに晃が慌てた。
「しまった!遅刻だ。藍華、早く着替えろ!」
「え?あ?」
晃は藍華のパジャマを無理矢理脱がし、パイロット用の服に着替えさせた。
「晃さん、私は~」
着替えさせられた藍華は晃に腕を引っ張られながら廊下を早足で進む。晃は藍華の言葉を無視して先を急ぐ。そしてレディルームのドアを晃が開けた。部屋には皆が座って待っていた。
「晃ちゃん遅~い」
ドアを開けるとアテナ・グローリィが間延びした声で出迎えた。
「あらあら、晃ちゃんが遅刻なんて珍しいわね」
次いでアリシア・フローレンスが柔らかな声で茶化す。
「すまない。では、早速ブリーフィングに入るぞ」
晃は恥ずかしそうな顔をしながらスクリーンのある壁に向かう。藍華は友人である水無灯里とアリス・
キャロルの姿を見ると、その場所へと向かう。
「藍華先輩でっかい遅刻です」
「いつもは遅刻しないに珍しいね藍華ちゃん」
アリスと灯里が出迎えると藍華は2人の間に座り早くも質問をする。
「ちょっと質問。2人とも戦闘機パイロット?」
藍華はここでアリスが「藍華先輩でっかい冗談ですか?」と、灯里が「ほへ~?私は違うよ」
と返すのを期待した。
「そうですよ藍華先輩」
「私もそうだよ。私達も藍華ちゃんも同じパイロットだよ?」
2人とも藍華の期待を裏切る言葉で応えた。藍華は心中「あ~やっぱり」と自嘲気味に落胆した。
「これよりブリーフィングを行う」
晃がこう言うと皆は姿勢を正して晃に向き直る。
晃の背後にあるスクリーンには地図が映し出されている。
「我が艦隊は1時間前から敵航空戦力の攻撃範囲に突入した。今日の艦隊護衛任務では敵機との交戦はありえるだろう。1100時には友軍の艦隊が我が艦隊と合流する。その前に敵が攻撃を仕掛ける可能性が高い、気を引き締めて行け」
晃は藍華が鬼教官と畏怖する姿で簡潔に状況を説明した。だが、藍華には内容はよく分からなかったが戦闘になる事は分かり身体は硬直した。
(まさか戦争してるって言うの?冗談じゃないわ!?)
藍華の周りでは説明する晃の言葉を真剣に聞く灯里やアリス・アリシア・アテナの姿がある。藍華には見慣れた彼女たちも徐々に見知らぬ人物に見えだした。
「今より50分後に出撃、以上だ」
晃がこう言ってブリーフィングを終えると藍華を除く皆は起立して敬礼し、レディルームを後にする。
残った藍華は呆けた表情で席に座ったままでいる。
「藍華。何ぼさっとしている!出撃はすぐだぞ!」
晃はまた藍華の腕を掴んで今度はレディルームから連れ出し、フライトジャケットやヘルメットを着けた。藍華は抗議をしようとしたが、頭が今の自分のいる所が何なのか?これから起こる事も理解できず晃の為すがままになっていた。
必要な物を身に着けた藍華は晃に引っ張られながら長い廊下を歩き、階段を上がる。階段を登り終えると藍華は眩しい光で目が一瞬くらむ。目が慣れるとそこには快晴の青い空が見えた。
藍華はそこで外に出た事を知る。だが、藍華にはそんな余韻に浸る事は許されず晃に引っ張られた。
(飛行機がいっぱいだ)
藍華の目には新たに道路と似たような場所の上にグレーの航空機が密集するように留めてあるのが見えた。軍用機は愚か飛行機もよく知らない藍華は空母「アクア」のフライトデッキは迷宮に来たかの如く不思議な気分になっていた。
「あ、晃さん…」
フライトデッキの光景に目を奪われていた藍華はいつしか側に晃が居ない事に気づいた。辺りを見回して探すと1機の航空機の側に晃は居た。晃はその機体を右回りでゆっくり歩きながら見ている。藍華には分からなかったが、パイロットが自ら乗る機体をチェックするプリフライトチェックである。操縦する自らの目で異常が無いか確認する為だ。
「まさか。あの飛行機に乗るの?」
藍華は目に前にある主翼を後退させて畳み、2つの尾翼を持つジェット戦闘機の姿に圧倒された。
その戦闘機の名はF14トムキャットである。