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晃は藍華が復活した事で次の行動を考えた。
自分の機体はまだ戦える。けれどもアリシアとアテナの機体はミサイルを消費している。暁達「ネオ・ヴェネチア」の飛行隊と「アクア」の他の戦闘機小隊だけで充分な今こそ両機の補給をさせるべきだと晃は考えた。
「こちらグリムゾン・ローズ。『アクア』へ、スノーホワイトとセイレーンを補給の為着艦させたい」
晃が「アクア」に連絡する。
「了解した。グリムゾン・ローズの補給は行わなくて良いのか?」
「こちらはまだ大丈夫だ。あと1時間上空を警戒する」
この通信が終わると晃はアリシアとアテナに「アクア」へ着艦するように指示した。
同じ頃。巡洋艦「サン・ミケーレ」
「艦長!3時方向から新たな敵編隊。その数およそ20!」
CICに緊張が走る。オペレーターの報告に反応して艦長が「対空戦闘用意。ただし消火作業は続行せよ」を命じる。
「サン・ミケーレ」は今だミサイル直撃による火災を消し止めていない。
「この状態で戦闘は最悪ですね」
アトラが心配そうに言った。
「出来れば戦闘機に任せたいが…無理か…」
艦長はCICのスクリーンを見た。そには新たな敵機の反対方向で今だ繰り広げられている空戦を示していた。
「艦隊上空には1個小隊しか居ないですね」
アトラはスクリーンの中で空戦に加わっていない戦闘機小隊を見つけた。三大妖精小隊である。
「20機に10機も無い戦力では無謀だ。期待はできまい」
室内は重苦しくなる。敵の波状攻撃に艦隊は窮地に立ったのだ。
「また敵機だと!」
晃は早期警戒機からの情報で3時方向から迫る敵機を知った。
「こちら『アクア』。三大妖精の状況を報告せよ」
「アクア」から性急な問い質しが来た。アリシアとアテナを着艦させようとしていたが、新たな敵を前に使える戦力が欲しい為に無理をさせようとしているのだ。
「『アクア』へ。スノーホワイト・セイレーンは補給が必要だ」
晃が強い口調で言うと
「今は1発のミサイルでも残ってるなら敵に向かうんだ!ここまで来て大きな損害は出せない」
と、こちらも強い口調で反論される。
「確かに。ここまで来ましたからね…」
晃は歯ぎしりしながら無理矢理納得した。
「晃ちゃん。私は大丈夫よ」
「私もよ。何とかなるわ」
アリシアとアテナが晃に心配させじと健気に言った。
「……では行こうか。三大妖精!」
晃は決心した声で叫ぶと機を新たな敵の方向に向けた。その後をアリシアとアテナが続く。
「こちら『アクア』。三大妖精へ。FA18のフォーリア(葉)小隊を送った」
「クリムゾン・ローズ了解」
FA18ホーネット戦闘攻撃機の小隊が援軍として加わる事になった。空対空戦闘にはやや劣るホーネットではあるが、援軍が無いよりかはマシだ。
「晃さん!12時方向から敵機12機がこちらに接近中!また別の8機が10方向から艦隊に向かってます」
藍華はTIDディスプレイに映る敵の動きを見て藍華が知らせる。
「敵は二手に分かれたか。こっちに向かってるのが戦闘機で10時のは攻撃機か」
こう言いながら晃はTIDの画面と同じものが脳内に映り作戦を練る。
敵は二手に分かれた。まだこちらは3機で、しかも弾薬が不十分だ。このままでは敵戦闘機との空中戦は必至。敵の攻撃機は防げない。
「こちらグリムゾン・ローズ。フォーリア小隊」
「こちらフォーリアリーダー。もう少し待ってくれあと1分でそちらに向かう」
「いや、10時方向の敵編隊に向かってくれ」
この晃の指示にフォーリアリーダーは愕然とした。
「しかし、12機の敵機に3機で挑むなど…」
「艦隊に大きな損害が出れば作戦は中止になってしまう。それに私達は死ぬつもりはない」
「了解した。幸運を祈る」
交信が終わると2つの小隊はそれぞれの目標へと向かう。
藍華は全身を締め付けるような思いだ。ようやく取り戻した戦闘機パイロットとしての感覚。その勘がこれからの激戦を想像させ緊張を生む。
「藍華頼むぞ。私やアリシア・アテナの為にも」
晃が再確認するように藍華に言った。
「はい、晃さん。これからがグリムゾン・ローズの本領発揮ですからね。任せて下さい!」
元気に応える藍華に晃は「よ~し晃様の恐ろしさを敵に見せてやろう」と笑う。
「え?敵がまた二手に分かれた」
TIDに映る画面を見て藍華は理解できないという口調で晃に報告する。
「どういう事だ?何機で分かれた」
「12時に4機。9時方向へ8機」
晃は少し考える間を開けて命令を下す。
「アリシア!アテナ!9時の敵に向かえ」
それを聞いた2機からは「了解」とだけ返事が返る。もう、寡兵で戦う事の躊躇は無い。ただ自分と友を信じるのみ。
「藍華。分かれた敵をどう思う?」
晃がそう質問を藍華にする。
「多分敵はフォーリア小隊の攻撃に向かって分かれたのでは?」
「だろうな。まあ、敵が戦闘機ばかりであれば」
そこへ通信が入る。フォーリア小隊からだ。
「こちらフォーリアリーダ。グリムゾンローズ。こちらはMig29だらけだ攻撃機はいないぞ。どうやら貧乏くじを引いてしまったらしい」
フォーリア小隊の隊長は冗談を交えて晃に伝える。
「了解した。そちらに幸運を」
「俺もまだ死ぬつもりは無い。可愛いウンディーネ達の姿をまた見るまではな」
フォーリアリーダーの冗談で通信が終わると晃と藍華は自分達の事を思い出した。戦いが終わった後も自分達の存在意義がある事を。
「晃さん。敵がMig29だとしたらあと1分でR27ミサイルの射程に入ります」
R27は空対空ミサイルで、射程はタイプによるが70kmから110kmまである。今は敵小隊より130kmの所である。
「ようし、目眩ましをしてやろう。フェニックスを全部発射だ」
フェニックスはF14が持つ最大の武器だ。射程150kmと言う空対空ミサイルの中では最も遠い敵を撃てるこのミサイルは敵爆撃機という大型の目標を狙う為に作られたミサイルである。
「フェニックス全弾発射!」
藍華の操作で搭載されていたフェニックスの全弾。敵との距離100kmで2発が敵機に向けて撃たれる。照準を合わせているとはいえ、晃の狙いは敵の目眩ましだ。ミサイルに狙われて回避行動を取る敵機を各個撃破する。それが晃の狙いである。
「敵機全機が回避行動を取りました」
「一番近いのは?」
晃のオーダーに応えるべく四散した敵編隊から我と一番近いのを選ぶ。
「1時方向距離80km」
「よし、行くぞ」
狙いを定めたグリムゾン・ローズのF14。F110エンジンをアフターバーナーで震わせつつ一匹目の得物を狩りに行く。
「こいつもMig29か。敵攻撃機は居ないのか?」
機影から機種を判断した晃。ここにも戦闘機しかいない。
「藍華!スパローだ!」
「了解!」
まず1機のMig29が撃墜された。
「敵機が1機後ろに回り込もうとしてます!」
「構うな。9時の奴をやる」
機体を左へ急旋回させて9時方向の敵へ向かう。その機動で背後に回ろうとした敵をも回避する。
「藍華!ボサっとすな敵の動きを報告し続けろ」
「あ、はい。今3時と5時の方向にあります」
マッハの世界で展開される戦い。それを生き抜くのは敵と自分の位置を把握する事だ。まして1機だけの状況では尚更。見落としは命取りだ。
「スパロー発射!」
逃げるMig29の背後へ滑るように回ると即座にスパローミサイルを放つ。
まさに見敵必殺の戦いである。目に付いた敵を次々と撃ち落とす。これがグリムゾンローズの戦いなのだ。
また1機のMig29を撃墜したが、相手はまだ2機。不利な状況に変わりはない。
「敵機2機が離れてます。11時と5時に」
「誘ってるぞこれは。どっちに食い付いても挟み撃ちにする気だ」
フェニックスの目眩ましと続くグリムゾン・ローズの強襲で混乱した敵も立ち直っていた。お互いで敵を誘い、どちらかに向かえば僚機がグリムゾン・ローズの背後を取るつもりなのだ。
「さて・・・どうするか」
晃は行き詰まりになろうとしている状況に頭を悩ませる。
攻めも退くも不利。さてどうするか。空戦ではすぐに決断をせねばならない。
晃は決心すると機体を旋回させた。それはどちらの敵機ににも向かわない方向へ。
逃げる形になったとはいえ藍華はそれに不服は無かった。どう見ても不利だ。ならば逃げに出るのも納得できていた。
「敵機2機追ってきます」
TIDに映る2機のMig29は仲間の仇を討たんとするように追撃を始めた。
(逃げ切れるか…)
藍華は不安を感じた。最高速度でF14はマッハ2.34、Mig29はマッハ2.3である。
僅かにF14が早いとはいえ、こちらがフェニックスを撃ったと同じように目眩ましでMig29が空対空ミサイルを撃てば僅かな足の速さは回避行動で効果を失う。
そして追い着いた2機のMig29に袋叩きにされるのだ。
「ミサイル!6時と8時の方向から来ます!」
藍華は叫んだ。
晃は急降下を行いMig29かミサイル自体から晃の機体を求めるレーダーを回避する動きに出た。レーダーの狙いから逸れればミサイルを避けられる。
「また来た!同じ方向からです!」
降下する晃にR27ミサイルが迫る。今度はフレアを放出して右に旋回してかわす。
(追い着かれてる…)
晃はMig29との距離が縮まっていると実感した。2度の回避行動が敵機から逃れにくい距離にまで追い着かれてしまったのだ。
「まだ、諦めはしない!」
晃はアフターバーナー全開で速度を高め、距離を開こうとする。
身体に叩き付けられる重力。その痛みも敵から逃げられる生への活路が開ける実感に思える藍華と晃。
果たして敵から逃れられるのか。少なくともミサイルの狙いから外れる距離に行きたい。
2人はそれを願った。
「晃さん。敵機が方向を変えました!3時方向」
藍華の報告で胸を撫で下ろす晃。マスクの中で大きく息を吐いた。
「諦めたのかな」
藍華の疑問はすぐに判明した。
「こちらスノーホワイト。敵機を全機撃墜。損害無し」
アリシアからの通信にまた晃は安堵を得る。
我は2機で、敵は8機で戦ったアリシア達。彼女たちの目の前に現れたのは鋼鉄の鳥類と思わせるスタイルをした機体で「白鳥」の別名を持つTu160ブラックジャック爆撃機だ。
「これなら私達だけでも大丈夫ね」
アリシアは目の前でアリシアとアテナから逃げようと散開するブラックジャックを見て言った。
「けど、早く攻撃しないと。多分対艦ミサイルを積んでるはずだわ」
アテナの言葉で攻撃は始まった。
ブラックジャックは最高速度マッハ2と言う爆撃機としてはずば抜けて早い機体ではあるがF14はマッハ2.34。空中戦が出来ない爆撃機には状況を変えられないものとなっている。
まさに狼と羊の戦いである。散開した爆撃機のパイロット達はこちらにF14が来ない事を祈るだけであった。
「容赦はしないわよ。アリスちゃん、サイドワインダーを」
「はい」
アテナ機はまず残る1発のサイドワインダーミサイルを使って1機を撃墜した。
「艦隊に近づいてるのは?」
「2時方向です」
アリスが手短に報告した方向にアテナは機体を向ける。残るミサイルはフェニックスミサイル2発のみ。
「フェニックス使いますか?」
アリスが尋ねた。
「機関砲を使うわ」
「ですけど、早く撃墜しないと敵はミサイルを艦隊に発射しますよ」
「なんか、使っちゃいけない気がするのフェニックス」
「そうですか…」
アリスはアテナの決断を納得できないまま了解した。
そうしている内にアテナ機はブラックジャックの背後を取る。20ミリ機関砲で「白鳥」の別名を持つ独特のスタイルをズタズタに穴を穿つ。
その穴は主翼にの下部にあるターボファンエンジンにまで届き、火焔を噴く。その炎は白鳥の命を蝕み空から徐々に下ろしていく。
アテナはこの調子で機関砲によりもう2機を撃墜した。機内に対艦ミサイルを抱えた爆撃機では回避の機動もままならず狩られた。
アリシア機も1発づつ残るスパローとサイドワインダーで2機を撃墜。フェニックスでもう1機を撃墜した。
だが、7機の犠牲によって生まれた間隙で1機のブラックジャックが艦隊へと出せる最大速度で向かう。
「灯里ちゃん、フェニックスを!」
「はい!」
アリシア機から最後のフェニックスミサイルが放たれる。それはブラックジャックに命中した。
「これは…あの敵機から対艦ミサイルが発射されました!」
アリスはTIDの表示からブラックジャックから一矢報いるとばかりに発射されたKh-59空対艦ミサイルを確認した。
「艦隊には行かせない!」
アテナはKh-59を追う。
「敵のミサイルをどうするんですか!?」
「まだフェニックスが残ってる。それで」
「え?まさかはこれを知っててフェニックスを?」
アリスはまさかアテナが予知能力があったのかと思えた。
「いいえ、なんとなく使っちゃいけないと思っただけ」
アテナは大した事ではない様に言ったが、アリスにはアテナが何処か人間離れしたものがあるに違いないと確信した。
「アリスちゃん。照準お願い」
「あ、はい」
アテナの特殊能力への考察を辞めてアリスは艦隊へ直進するKh-59に電波ビームを当ててフェニックスが向かうように操作する。
この間。アテナ機は燃料切れ覚悟のアフターバナー噴射による最高速度でKh-59に迫る。
「発射準備良しです!」
「2発とも発射!」
「発射!」
放たれた2発のフェニックスはアテナ機から発信される電波ビームがKh-59に当た反射波を拾い正確な目標の位置を掴んで進む。
(当たれ当たれ当たれ当たれ)
アリスはTIDでフェニックスがKh-59に近づく様子を見ながら心の中で懸命に祈る。
(フェニックスは100kmも飛べるし、誘導のビームも出し続けてる。当たるはず)
今度はフェニックスが命中する事を論理的に考えて自分を納得させた。そうしなければアリスは何処か落ち着かなかった。
そのアリスに応える様にフェニックスは命中した。1発が命中してKh-59を爆砕した。もう1発はその爆発に至近で巻き込まれ、これも爆発した。
「やった…」
3発のミサイルで生まれた派手な爆発でアリスは成功したのだと分かった。
「フロリアン01より各機へ。敵機は離脱しつつあり」
「こちら空母『アクア』着艦用意よし」
早期警戒機と空母「アクア」からの通信で空戦が終わった事が告げられた。
「終わった…」
藍華にとっては長く感じたこの空戦。その終了に肩の力が抜ける。
「こちらフォーリアリーダー。三大妖精へ、無事か?」
フォーリア小隊の隊長から通信が来た。
「こちらグリムゾンローズ。おう、全機無事だ。そちらは?」
晃が元気に答える。
「こっちは2機がやられた。だが、これで可愛いウンディーネ達を見るのに近づいた訳だ」
「その、可愛いウンデーネは私の事だよな~」
「勿論だとも!だが、本命はアリシアさんだけどな」
ティフィーネリーダーがそう言うと新たに通信が割り込む。
「どこの誰だが知らないがアリシアさんは俺のなあ――」
暁である。アリシアと聞いて黙っていられなかったようだ。
「お~みんな無事だったのだー」
暁が言い終わる前にウッディーが割り込み暁の言葉は邪魔された。
「良かった。みんな無事だ~。しかも空での再開なんて凄い奇跡」
灯里が皆が無事な事を知るとこう言った。これを聞いた藍華はこう言わずにはいられなかった。
「灯里、恥ずかしい台詞禁止ぃ」
「え~」
さっきまで戦いによって殺伐とした空が笑いに包まれる。
こんな風にいつでも笑っていられる時に早く戻りたいと誰もが思っていた。