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そこは地獄であった。
悲鳴に怒号が直面する恐怖を音で表現するには十分だった。
それに目に映る光景。海岸に集う兵士達が敵からの攻撃、熱線を受けて悲痛な叫び声を上げながら炭になる様が何人も一度の形で見られた。
地獄なのだ。
いや、煉獄と言うべきなのだ。
突如空の彼方から襲来した異星人達。それに支配されたヨーロッパを取り戻すべく兵士達はこの海岸、フランスのノルマンディー地方にある海岸に踏み込んだのだ。
「挫けるな!俺達は祖国に帰って来たんだぞ!」
ポール・ガーレット大尉は周りの兵士に向かって叫ぶ。
自由フランス軍に属する彼にとっては悲願の祖国への帰還である。ここで退いてしまっては2度とこのフランスの血を見ること無く生涯を終えてしまうかもしれない。
その思いは今だ未知である敵に戦意が挫けそうな自由フランス軍兵士達も同じだ。ここから先に行かねば自分達の故郷には帰れないのだ。
「そこの兵隊!あいつを狙え!」
ガーレットは近くで砂浜に伏せている兵士を起こして目標を指差す。
「分かったか、ヤンキー」
その兵士はアメリカ兵だった。どうやら混乱して自由フランス軍担当のこの海岸に来てしまったようだ。そのアメリカ兵はガーレットのフランス語が理解できていなかったが、敵に指差していたから何をすれば良いかすぐに分かった。
アメリカ兵は持っているM9対戦車ロケット発射器。通称バズーカでガーレットの指した敵。4本足のタコみたいなロボットに向けて撃った。
発射された成形炸薬弾頭(HEAT)は敵ロボットの右側前部の足にある関節に命中した。すると敵ロボットはガクリと肩を落とすようにバランスを崩した。
「伏せろ!」
ガーレットはアメリカ兵の背中を押して砂浜に伏せた。敵ロボットが自分を撃ったアメリカ兵を捜しているのだ。見つかれば瞬時に人体が炭になる熱線が放たれるだろう。
だが、その敵ロボットの命運はすぐに尽きた。別の方向からの攻撃だろう。敵ロボットの左側後部の足が爆発して切断された。敵ロボットは残る2本の長く細い足が機体の重量に耐えられないせいか地震で崩れた塔の様に壊れた。
止めを刺したのはこれも混乱して迷い込んだのかイギリス軍のチャーチル戦車であった。
「おおお!!」
やっと仕留めた敵に兵士達から歓声が沸く。恐怖に縮む心に意欲を取り戻し士気が高くなる。
そんな連合国軍兵士を嘲笑うかのように新たな敵ロボットが10体以上の近づく姿が重い足音と共に迫る。それに誰もが息を呑んで覚悟を決めた。
「よし!やるぞ!」
「うおおおおお!!」
ガーレットがそう号令をかけると兵士達は皆武器を手に向かおうとした矢先。
敵ロボットは何か大きな力に正面から叩かれたように爆煙に包まれながら倒れた。
「海軍か。助かる」
ガーレットは自分達の背後にある海。ドーバー海峡を見るとそこに居るフランスの「リリューシュ」や「ダンケルク」にドイツの「ビスマルク」・「シャルンホルスト」、イギリスの「キングジョージⅤ世」に「フッド」、アメリカの「ニュージャージー」や「テキサス」、更には遠く日本から「大和」や「長門」と言った各国海軍の艦艇がヨーロッパ解放の尖兵である彼らを全力で援護していた。
ノルマンディー沖の大気と海面を震わせるその砲撃の連奏は並では無かった。戦艦だけでも33センチから46センチの各種砲が異星からの不気味な戦闘機械を叩き壊す。
「空からも来たぞ!」
その声に釣られてガーレットが空を見上げるとイギリスから飛び立った1000機以上のDC3輸送機がノルマンディーの奥へと向かっている。中にはグライダーを引く機もあり空挺部隊を運んでいるのだ。
「見ろ!空挺部隊の連中が来たぞ!負けてはおれんだろ!」
ガーレットが兵士達に言うと、戦意が最高潮に達した彼らは「はい!大尉、俺達も早く前進したいです!」と答えた。
「よし行こう!パリのまでな!」
「おおおおお!」
撃破された敵ロボットの横を自由フランス軍やアメリカ軍にイギリス軍・自由ドイツ軍の兵士達が駆け抜ける。先のバズーカを持ったアメリカ兵もフランス兵に混じって行く。あのチャーチル戦車もだ。それはつい最近までのイデオロギーでいがみ合った時では信じられない各国の混成ぶりである。
けれども、そんなしがらみを取り払わなければあの未知で強大な敵は倒せない。それを早く悟り(それまでに多くの代償が払われたが)連合国軍として団結してこのヨーロッパ、いや地球上から侵略者を追い払わんとしているのだ。
時に1944年6月6日。フランスはノルマンディーで始まった人類の総反攻である。